包括的人権
①幸福追求権とは
13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
・生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を幸福追求権と呼ぶ。
・憲法14条以下に規定されていない人権であっても、社会の進展に伴い人間としての生存に必要不可欠な利益となれば「新しい人権」として13条を根拠に認めることができる。
・「新しい人権」として判例で認められたもの・・・・プライバシー権、人格権、肖像権
②プライバシー権
【プライバシー権とは】
・ひとりで放っておいてもらう権利(アメリカの判例)
・私生活をみだりに公開されない法的保障(「宴のあと」事件)
・自己に関する情報をコントロールする権利
【重要な判例】
①「宴のあと」事件(東京地判昭39.9.28)
(判旨)
個人の尊厳という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによってはじめて確実なものとなるのであって、そのためには、正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならないことは言うまでもない。
私事をみだりに公開されないという保障は、不法な侵害に対しては法的救済が与えられるまでに高められた本格的な利益であり、それはいわゆる人格権に包摂されるものであるけども、なお一つの権利と解するのが相当である。
②前科照会事件(最判昭56.4.14)
(判旨)
前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。したがって、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたる。
③江沢民講演会参加者名簿提出事件(最判平15.9.12)
(判旨)
本件の個人情報(学生番号・氏名・住所・電話番号等)につき、本人が自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えるのは自然なことにであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。また、本件においては、学生の承認を求めることも容易であった。
よってプライバシー侵害があったといえるので、不法行為による損害賠償を認めた。
④ノンフィクション「逆転」事件(最判平6.2.8)
(判旨)
刑事事件につき被疑者とされ、特に有罪判決を受け服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接かかわる事項であるから、その者は、みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有する。
【ノンフィクション作品で、実名の公表が許される場合とは】
①事件の公表に歴史的・社会的意義が認められる
②その者が公的立場にある者である
③その者の社会活動の性質・社会的影響が重大である
※著作物の目的・性格等に照らし、実名を使用することの意義・必要性を併せ考えることが必要である
→「石に泳ぐ魚」事件(最判平14.9.24)
⑤外国人登録原票事件(最判平9.11.17)
(判旨)
登録事項確認制度を定めた改正前の外国人登録法の各規定は、在留外国人の居住関係および身分関係を明確ならしめ、その公正な管理に資するという行政目的を達成するため、外国人登録原票の登録事項の正確性を維持、確保する必要から設けられたもので、その立法目的には十分な合理性があり、その必要性も肯定することができる。
そして、確認を求められる事項は、職業、勤務所棟の情報を含むものではあるが、いずれも人の人格、思想、信条、良心等の内心にかかわる情報とはいえず、同制度は、申請者に過度の負担を強いるものではなく、憲法13条に違反しない。
③肖像権(プライバシー権の一つ)
【肖像権とは】
自己の容貌等をみだりに撮影されたり、公表されたりすることがないことを内容とする権利
【重要な判例】
①京都府学連事件(最大判昭44.12.24)
(判旨)
憲法13条は、国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力に対しても保護されるべきことを規定し、何人も、その承諾なしに容貌、姿態を撮影されない自由を有する。
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない。
【肖像権と捜査目的の写真撮影との調和の基準】
①現に犯罪が行われもしくは行われた後間がないと認められる場合であること
②証拠を保全する必要性・緊急性があること
③撮影方法が一般的に許容される限度を超えない相当な方法であること
※これらの要件を満たせば、本人の同意を得なくても写真撮影することが許されることになる。
②オービス撮影事件(最判昭61.2.14)
(判旨)
自動車速度監視装置(オービス)による運転者の容貌の写真撮影は、①現に犯罪が行われている場合になされ、②犯罪の性質、態様からいって、緊急に証拠を保全する必要性があり、③その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから憲法13条に違反しない。
④自己決定権
【自己決定権】
個人が一定の個人的事柄につき、公権力から干渉されることなく、自ら決定することができる権利のこと
【重要な判例】
①「エホバの証人」輸血拒否事件(最判平12.2.29)
患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。
ところが、医師が輸血の可能性のある手術を患者に説明しないまま施行し、輸血をしたのであるから、患者の意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、損害賠償責任を負担すべきである。
法の下の平等
①14条1項前段
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
A「法の下」の意味
①法適用平等説・立法者非拘束説(少数説)
「法の下」の平等とは、法を執行し適用する行政権と司法権による差別を禁止するという法適用の平等を意味し、立法者を拘束するものではない。
②法内容平等説・立法者拘束説(判例・通説)
「法の下」の平等とは、法を執行し適用する行政権と司法権による差別を禁止するという法適用の平等だけではなく、法内容の平等をも要求して、すべての国家機関(行政・司法・立法)を拘束するものである。
B「平等」の意味
①絶対的平等説
各人の事実上の差異を無視して、絶対的・機械的に全く同じに扱うことを意味する。
②相対的平等(判例・通説)
同一条件・同一事情のもとで均等に扱わなければならないことを意味する。
恣意的な差別は認められないが、社会通念上合理的な範囲での取り扱いの区別は許される。
→〇産前産後休暇、累進課税 ✖男女間の定年年齢の差
C「人種、信条、性別、社会的身分、門地」は限定列挙か、例示列挙か
①限定列挙説
上記に列挙されている事由による差別だけが禁止されている。
②例示列挙説(判例・通説)
上記は単なる例示にすぎず、これ以外による差別が許されるわけではない。
②14条2項後段
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
A人種
→外国人に対する取り扱いの区別は、人権の享有主体性の問題であり、人種による差別の問題ではない。(最判昭30.12.14)
B信条
→三菱樹脂事件(最判昭48.12.12)
C性別
→日産自動車事件(最判昭56.3.24)
→再婚禁止期間事件(最判平27.12.16)
女性にのみ再婚禁止期間を設ける民法の規定は、その立法趣旨が父性の推定の重複を回避し、父子関係を巡る紛争の発生を未然に防ぐことにあり、当該100日について一律に女性の再婚を制限することは、合理性があり違憲ではない。
100日を超過する部分については、合理性を欠いた過剰な制約を課すものであり、国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるもので、違憲である。
D社会的身分
→非嫡出子差別規定違憲訴訟(最決平25.9.4)
非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする旧民法の規定は、父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重しその権利を保障すべきである。
→国籍法違憲訴訟(最判平20.6.4)
E門地
門地とは、家系・血統等の家柄をいう。
皇族に認められる特別の地位は、形式的には門地による差別であるが、これは憲法2条が世襲の皇位継承を認めていることから許される例外とされている。
③その他判例
A罰則規定
→尊属殺重罰規定違憲訴訟(最判昭48.4.4)
尊属に対する尊重報恩は、刑法上保護に値するものであるが、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑にのみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遙かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく差別的な取り扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効である。
B投票価値
→衆議院議員定数不均衡違憲判決(最大判昭51.4.14)
(事案)
昭和47年に行われた衆議院選挙において、各選挙区の議員一人当たりの有権者分配率は、最大4.99対1に及んでおり、これは合理的根拠に基づかないで、選挙区のいかんにより一部の国民を不平等に扱ったものであり、憲法14条1項に違反するとして争われた。
(判旨)
各選挙人の投票価値の平等は、憲法の要求するところであると解するのが相当である。
本件選挙における約5:1の偏差は、選挙権平等の要求に反する程度になっており、また、憲法上要求される合理的期間内に是正されたなかったものと認めざるを得ない。
そして、選挙区割及び議員定数の配分は不可分一体をなし、全体として無効となる。しかし、選挙は違法と宣言するにとどめ、無効としない。
→衆議院議員選挙・・・おおむね3対1になったら違憲とされている
→参議院議員選挙・・・6対1になったら違憲とされている
「1票の格差」が最大3.00倍だった2019年7月の参院選は投票価値の平等に反して違憲だとして、弁護士らのグループが四国3選挙区の選挙無効(やり直し)を求めた訴訟の判決で、高松高裁(神山隆一裁判長)は16日、各選挙区の定数配分を「違憲状態」と判断した。国会の裁量権などを認め、無効請求は棄却した。原告側は上告する方針。
引用元:日本経済新聞 2019年10月16日
→合理的期間内に是正されなかった場合に限り違憲となる。
→問題となった選挙区に限らず、議員定数の配分規定が全体として違憲となる。
→当該選挙は違憲であはるが、選挙を無効とする混乱を避けるため、選挙自体は無効とはしないという考え方をとっている。(事情判決)
C地域
→売春等取締条例違反事件(最判昭33.10.15)
憲法が各地方公共団体に条例制定権を認める以上、地域によって差別が生ずることは当然予期されることであるから、このような差別は憲法みずからが容認するところであると解すべきである。
D租税
→サラリーマン税金訴訟(最大判昭60.3.27)
租税法における所得の違いによる取扱いの区別は、その立法目的が正当であり、かつその区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法に違反しない。
E婚姻・家族生活
→夫婦別氏制事件(最判平27.12.16)
夫婦同氏の原則を定める民法750条の規定は、いずれの̪氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取り扱いを定めているわけではなく、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、憲法14条1項に違反するものではない。
④平等原則の具体化
第14条
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第15条 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定めるる。ただし、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産、収入によつて差別してはならない。
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。