憲法総論
①日本国憲法の三大原則
基本的人権の尊重、国民主権、平和主義
②憲法前文の法的性質
前文とは、法律の最初に付され、その法律の目的や精神などを述べる文章のこと。
A 法規範性・・・あり(変更するには憲法改正手続が必要)
B 裁判規範性・・・争いあり
※ただし前文が本文の解釈基準となることには争いはない
③国民主権
A 主権の意味
①国家権力そのもの
②国家権力としての最高独立性
③国政についての最高決定権
B 国民主権の意義
①権力的契機(有権者・直接民主制)
②正当性の契機(全国民・間接民主制)
④天皇
A象徴天皇制(1条)・・・日本国の象徴、日本国民統合の象徴。主権の存する日本国民の総意に基づく。
B皇位継承(2条)・・・世襲制。具体的内容は皇室典範(法律)が定める。
C天皇の権能(4条)・・・国事行為に限定。内閣の助言と承認が必要。内閣が責任を負う。
国事行為とは実質的決定権を含まない形式的・儀礼的な行為のこと。
D国事行為の内容(4条2項、6条、7条)
E国事行為の代行・・・国事行為の委任(4条2項)、摂政(5条)
F公的行為・・・国事行為でもなく、私的行為にも当てはまらない「おことば」の合憲性は?
G皇室財産の授受の制限(8条)
H皇室財産の帰属(88条)・・・国に属する。予算に計上し、国会の議決が必要。
⑤戦争の放棄
A憲法9条2項の「戦力」の意味は?
B在留米軍は「戦力」か・・・判例(砂川事件)
C自衛権・・・肯定される(砂川事件)
人権総論
①人権の分類
自由権、社会権、参政権、国務請求権(受益権)に分類。
自由権(国家からの自由)・・・精神的自由・経済的自由・人身の自由
社会権(国家による自由)・・・生存権・教育を受ける権利・勤労の権利・労働基本権
参政権(国家への自由)・・・選挙権
国務請求権(国家に求める自由)・・・請願権・国家賠償請求権・裁判を受ける権利・刑事補償請求権
②人権の享有主体性
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。
A国民の要件(10条)
B外国人・・・争いあり。判例は性質説により肯定。(マクリーン事件)
【理由】
①憲法が国際協調主義を採用している。
②人権は人間であることにより当然に有するとされる性格(前国家的・前憲法的性格)を有するから。
・入国・在留の自由→保障されない(マクリーン事件)
・再入国の自由→保障されない(森川キャサリーン事件)
・出国の自由→保障される(最判昭32.12.25)
・政治活動の自由→保障される。しかし、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。 (マクリーン事件)
・プライバシー権→保障される。在留外国人の指紋押なつ制度は合憲。(外国人指紋押なつ拒否事件)
・選挙権→保障されない。地方選挙権を付与することは許容される。
・社会権→原則的に保障されない。立法府の裁量の範囲。(塩見訴訟)
・公務就任権→権力的公務は× 非権力的公務は認められる。
C法人
憲法第3章に定める国民の権利・義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用される。(八幡製鉄政治献金事件)
保障されないもの・・・参政権・生存権・生命や身体に関する自由
・政治活動の自由(八幡製鉄政治献金事件・南九州税理士会事件)
・その他(群馬司法書士会事件)
D天皇
判例では、天皇も憲法第3章にいう国民に含まれ、憲法の保障する基本的人権の享有主体であり、その地位の世襲制、象徴としての地位、職務からくる最小限の特別扱いのみ認められる。天皇にもプライバシー権や肖像権の保障が及ぶ。
③基本的人権の限界
A公共の福祉による制限
公共の福祉が人権の制約根拠となり得るか?
第12条(自由・権利の保持義務、濫用の禁止、利用の責任)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
第29条
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
→一元的外在制約説、内在・外在二元的制約説・一元的内在制約説で争いあり。
①一元的外在制約説
「公共の福祉」・・・人権の外にあって、それを制約できる一般原理
人権のすべては12条・13条により政策的に制約することができる。
22条1項、29条2項の「公共の福祉」は注意的規定で特別の意味を持たない。
②外在・内在二元的制約説
「公共の福祉」・・・外在的制約(国家の政策的・積極的規制)
「公共の福祉」により制約できるのは、22条1項と29条2項、社会権(25条~28条)であり、それ以外の人権は内在的制約に服する。
12条・13条の「公共の福祉」は訓示的・倫理的規定で意味はない。
③一元的内在制約説(通説)
「公共の福祉」・・・人権の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理
12条・13条を根拠にし、22条1項・20条2項の「公共の福祉」は注意的な規定である。
B特別な法律関係における人権の限界(公務員・在監者)
・国家公務員の政治活動の自由(猿払事件・堀越事件)
・公務員等の労働基本権(全農林警職法事件)
・在監者の喫煙の自由(未決拘禁者喫煙禁止事件)
・在監者の知る権利(「よど号」ハイジャック記事抹消事件)
C私人間による人権保障の限界
憲法の規定のうち、明文で性質上、私人間に直接適用されることを予定しているものは15条4項後段のみ。
憲法15条
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
18条(奴隷的拘束及び苦役からの自由)、27条3項(児童酷使の禁止)、28条(勤労者の団結権・団体交渉権・団体行動権)も直接適用されると解されている。
上記以外の人権規定は私人間で適用されるか?
→無効力説と適用説で争いあり。通説・判例は適用説。
→ 適用説をとる場合、どのような形で人権規定を適用するか?
直接適用説、間接適用説、無効力説で争いあり。通説は間接適用説。
(三菱樹脂事件・昭和女子大事件・日産自動車事件)