今日は前回に引き続き、民法の総則を勉強したいと思います。
わたしたちの日常生活に、契約は多く存在します。
例えば、スーパーでの買い物も、「買います」「売ります」の売買契約です。
アパートを借りるのは賃貸借契約です。
これらの契約は、契約自由の原則から、自由に結ぶことができます。
そして、契約には、法的な拘束力が発生します。
「買う」と「売る」という当事者の意思が一致して、売買契約が成立します。
契約書はなくても契約は有効に成立します。
契約書は「買うって言った」「言わない」と後日争いになっって「裁判で決着をつけてやる!」となった場合に、証明するためのものです。(なので契約書はあった方がいいし、よく読まないといけません。)
では、この「買う」と「売る」という当事者の意思に、何か不都合があったらどうなるのでしょうか?
今日は民法総則の「意思表示」について勉強します^^
1.契約が成立し債権が発生する過程
契約が有効に成立すると、結果として債権が発生します。
例えばなおたろうが車を友人に売るとします。
車の売買契約では、なおたろうは代金支払「債権」(代金を友人からもらう権利)を取得して、車を引渡す「債務」が発生します。
売主のなおたろうに、債権・債務の双方が発生します。
なおたろうの友人は、代金支払「債務」が発生して、車を引渡してもらう「債権」を取得します。
友人にも債権・債務が発生します。
お金と車が、買主や売主のそれぞれに移転することを債権・債務という言葉を使って表します。
そして車の所有権がなおたろうから友人へ移転します。
例えば、なおたろうが友人からお金だけもらって、車を引渡す債務を実行しなければ債務不履行になります。
では、この契約が有効に成立するためのポイントは何でしょうか?
以下①~④をクリアしていなければ、債権は発生しません。
①成立要件を満たす必要がある。
成立要件である「意思表示の合致」が満たされる必要があります。
つまり、「1000円で買います」「ではその値段で売ります」という契約が成立することが必要です。
↓
②有効要件を満たす必要がある。
客観的有効要件と主観的有効要件を満たしている必要があります。
客観的有効要件は、確定性・実現可能性・適法性・社会的妥当性です。
主観的有効要件は、「意思表示が有効である」ことが必要です。
今日勉強する「意思表示」は、主観的有効要件に該当しない場合(瑕疵がある場合、存在しない場合など)に、どうなるか?という内容です。
↓
③効力帰属要件・・・代理
④効力発生要件・・・条件・期限
(説明は省略します)
↓
債権が有効に発生する
2.意思表示の構造
意思表示の構造は、伝統的な説明方法では、以下のように分析されます。
動機・・・「リンゴが食べたいな」と思う
↓
内心的効果意思・・・「あのお店にリンゴを買いに行こう」と決心する
↓
表示意思・・・店員に「あのリンゴを下さい」と言おうと決心する
↓
表示行為・・・店員に「あのリンゴを下さい」という
3.意思の欠缺(心裡留保・虚偽表示・錯誤)
意思の欠缺とは、「リンゴを買います」と言ったにもかかわらず、「あのリンゴを買おう」と思っていない状態のことです。
こういう場合を、「表示意思に対応する内心的効果意思が欠けている」と言います。
具体的に、どんな場合の事でしょうか?
①心裡留保 93条
第九三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
例えば、なおたろうが車を売る気がないにもかかわらず、「ええやろ。この車売ったるよ」と言うことです。
表意者が表示行為に対応する内心的効果意思がないことを知りながらする意思表示のこと心裡留保と言います。
このニセモノの意思表示が有効になると、なおたろうはやばいですよね。
車を売ってあげなければならなくなります。
では、心裡留保の効果をみてみましょう。
【効果】
原則・・・意思表示は有効(嘘つきなおたろうを守る必要はない)
例外・・・下記の場合は、意思表示は無効となります。
①相手方が表意者の真意について知っていた場合(悪意)。つまり友人が、「なおたろうは本心でない」と知っていた場合は意思表示は無効になる。
②相手方が一般的に要求される注意をしていれば知ることができた場合は意思表示は無効である。(善意・有過失の場合)
②虚偽表示 94条
第九四条①相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
②前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
例えば、なおたろうが借金を返済できずに、持ち家を銀行に没収されてしまいそうになっています。
困ったなおたろうが、友人と相談して、友人に家を売ったことにしよう。というようなケースが考えられます。(財産隠しです。仮装売買は強制執行逃れとなりますが、強制執行妨害罪という犯罪です。)
契約書も作って、登記名義も友人に変更します。
その場合、この嘘の契約は成立するのでしょうか?
【効果】
原則・・・当事者間においては無効です。
例外・・・善意の第三者には対抗できない。
例外の「善意の第三者に対抗できない」とは難しいですね。
友人がこの家を、全く事情を知らない知人Aに売ったとき、この知人Aは有効に家の所有権を取得できるという意味です。
なおたろうは「本心で家を売ったつもりじゃないんだから、家はわたしのものや!」と言うこと(=対抗すること)はできません。
保護される第三者の要件
①虚偽表示の当事者・一般承継人以外の者で
②虚偽表示が有効であると信じたこと (有過失でもよい)
③「新たに」「独立した」「法律上の」利害関係を有するに至った者
〈具体例)善意の第三者に該当するケースの例
・虚偽表示による仮装譲受人から当該不動産を譲り受けた者
・虚偽表示による譲受人の債権者でその目的物を差し押さえた者
・虚偽表示により債権を作り出した者からその仮装債権を譲り受けた者
仮装を本当だと認識したかどうかの基準時は、通知を受けた時ではなく、目的物を取得した時である。
・対抗要件は備える必要はない。
(具体例)善意の第三者に該当しないケースの例
①虚偽表示による土地の仮装譲受人から建物を賃借した者
②取り立て委任を目的にその債権を譲り受けた者
③差押えをしていない一般債権者
④後順位抵当権者
⑤代理人や法人の代表機関が虚偽表示をした場合の、本人や法人
第三者からの転得者の地位
善意の第三者からの転得者は悪意であっても保護される。(大判昭6.10.24)
悪意の第三者からの転得者でも、善意であれば保護される。(最判昭45.7.24)
③錯誤 95条
第九五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤
2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
例えば、リンゴ一袋欲しかったのに、「みかん一袋ください」って言ってしまった場合はどうなるでしょうか。
契約が有効に成立すると、法的拘束力が生じるので、なおたろうは「しまった~!!」と思いました。
このままみかんを買わなければならないでしょうか?
その場合、その意思表示は取り消すことができます。
「リンゴが欲しい」というのは、法律行為の要素(重要な部分)に該当しますから、このような内心で思った効果とは一致しない表示をしてしまった場合、意思表示をした本人の保護を考えて契約は取り消すことができるのです。
ただし、表意者に重大な過失があった場合は、意思表示を取り消すことができません。
錯誤の要件
①意思と表示の間に錯誤があること。
②表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤があること。
③表意者に重大な過失がないこと。
(例外として、重大な過失があっても以下の場合には無効を主張できる。)
・相手方が錯誤について悪意・善意重過失である。
・相手方も同一の錯誤に陥っていたとき。
【効果】
意思表示を取り消すことができる。
4.瑕疵ある意思表示(詐欺・強迫による意思表示)
瑕疵ある意思表示とは、意思の形成過程に瑕疵がある場合のことをいいます。
意思表示に対応する意思はあるので、「心裡留保」「虚偽表示」「錯誤」のような意思の欠缺には分類されません。
では、どのような場合に、意思の形成過程に瑕疵があると言えるのでしょうか?
条文を見てみます。
第九六条
①詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。
②相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
③前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
①詐欺による意思表示 96条
一つ目は、詐欺によって意思表示した場合です。
詐欺と言えるためには、詐欺者に、①相手方を欺いて錯誤に陥らせようとする意思と、②錯誤により相手に意思表示させようという故意があり、欺もう行為に違法性があることが必要です。(大判大11.2.6)
【効果】
原則・・・取消すことができます。
例外
①善意の第三者に対抗できません。
②相手方以外の第三者による詐欺の場合は、相手方がその事実を知っていたときに限り、取消すことができます。
例えば、詐欺グループなどは、「騙す役」と「契約を結ぶ役」は共謀していることが多いからです。
錯誤との関係
相手の欺もう行為により、錯誤に陥り意思表示をすることが詐欺である。
錯誤に要素の錯誤が存在する場合は、詐欺と錯誤の二重効が認められている。よって、表意者はその選択により錯誤による無効と詐欺による取消のどちらを主張することもできる。(通説)
②強迫による意思表示 96条
二つ目は、強迫によってする意思表示です。
「お前、俺にリンゴを買ってこいよ。じゃないと帰さないぜ。」と強迫されて、八百屋に「リンゴ下さい」と言ってしまった場合は、リンゴが欲しいことに間違いはないけど、リンゴが欲しいという意思を作るまでに瑕疵があると考えるのですね。
強迫による意思表示とは、害悪を告知することで相手を畏怖させ、意思表示させることで、故意があることが必要です。強迫行為に違法性も必要です。
【効果】・・・取消すことができます。
(善意の第三者にも対抗することができる点で、詐欺と異なります)
効果が、「無効である」場合と「取消すことができる」場合と2つパターンがあります。「取り消すことができる」場合は、取り消すまでは契約は有効ですので注意が必要です。
意思能力との関係
相手の強迫行為により、完全に意思の自由を失って意思表示した場合は、無効と取り消しの二重効が認められている。(最判昭33.7.1)
ふー!
ここまで、民法総則の意思表示をみてきました!
なんか、いろいろあやふやになってるとこもあって怖いです!!
実生活で今まで意思表示でトラブルになったこととかないから、あんまりイメージ湧かないけど、大事なところですね。
頑張って覚えたいと思います!
お付き合いいただきありがとうございました!!
では、また~^^